愛猫ぷうのいないロンドンなんて、つまらない。

『エセルとアーネスト』英国の近代史や風俗を学ぶには良いテキストでした

気を取り直して、昨日セーブを怠っていたために消えてしまったブログネタのことは忘れて、再びレイモンド・ブリックスの両親の話をもとにしたグラフィックノベル『エセルとアーネスト』の最新長編アニメーションの感想です。


レイモンド・ブリックスといいますと、『スノーマン』で有名なアーティスです。

みんな大好きスノーマン。


でも、個人的には、こっちのほうが印象深い。

『風がふくとき』、トラウマ映画の代表作です。
冷戦時代に創られた、核戦争のおそろしさを老夫婦を通して描いたものです。
オバサンになってから観たら、核兵器よりも、政府によるプロパガンダとか、為政者への絶対の信頼がどんなに危険であるかとか、無知がうむ誤解とか、そういったものにより恐怖を感じました。
(以前、ちょっとブログに書きました 高齢化社会、英国でも問題
世間的には『スノーマン』の知名度のほうが高いので、レイモンド・ブリックスというと「心温まる児童文学作家」的なイメージが強いかもしれませんが、結構この方の作品はいろいろ闇が強いと思っています。
(良質な子供向けのものは、本であれアニメであれマンガであれ、結構ブッラックですよね。手塚治虫しかり、宮崎駿しかり)


そういうわけで、『エセルとアーネスト』、期待、大でした。
ブルックスの母エセルと、父アーネストが、1920年代に出会って、結婚して、家を買って、子供を産んで、戦争になって、戦争に勝って、子供が成長して、テレビを購入したり、アポロが月面着陸をしたりするのを観て、年老いて、猫を飼って、病気になって、亡くなる、という、それだけのことです。
ただ、時代考証がきちんとできていて、細かいところまで風俗や家庭にある電気製品なども描写されていて、アーネストが聞いているラジオや新聞から、だいたいいつの時代のことかが憶測されます。
普通だと、1944年とかテロップをいれるのに、そういったもの一切無し。
エセルとアーネストの会話から、年代が分かるのです。
そして、その夫婦の会話が、とてもリアル。
会話に、ちょっとした間違い、勘違い、見解のズレとかがあって、それが独特の二人の世界をつくっています。
この会話に適度な無知さと適度な誤解と適度な偏見をふんだんに取り込んだのが、『風がふくとき』です。
アニメーターとしてのブルックスも素晴らしいのですが、ふたりの会話は自然でユーモアがあって状況をうまく説明してしまっていて、抜群の観察力と再現力だと思います。
『風がふくとき』の老夫婦も、ブルックスの両親がモデルだということなので、『エセルとアーネスト』の二人にも通じるものがあります。


ただ映画として観ると、話の中心は最初から最後までエセルとアーネストなので、心理描写とか過去の話とはほぼ出てこないので、鑑賞していくうちにいろいろな疑問が生まれて、それが消化されないまま終わってしまう感じがしてモヤモヤしたまま。
私が英国人ではないので、風俗や文化的なモヤモヤもありました。
例えば、元メイドのエセルと、牛乳配達員のアーネストという、どう考えても収入が高く無さそうなカップルが結婚当初から家を購入できたことに、もやもや。
そして、1920年代後半の高級ではないふつーの家に、水洗トイレと浴槽付きの完備されたバスルームがついていたことに、驚愕。
エセルがレイモンドを産んだとき、彼女は38歳、ということは、結婚したのは34、5歳くらい。
当時としてはかなりの晩婚で、遅い初産だったでしょう。
実は、若いときに結婚していたのかな、とか、勝手に妄想してしまうではないですか。
でも、そういうところもスルーされるのです。
それから、アーネスト側の家族が全く出てこないし、明確な説明がないこと。
レイモンドが、子供のときに窃盗で警察に捕まったエピソードも、説明無し。
深読みすべきではないのでしょうが、戦中疎開していたレイモンドはやはり孤独で親からもっと愛されたくてそんなことをしたとか、悪いと友達にそそのかされたとか、やっぱり考えてしまいます。
そして、二人が亡くなって、さすがの私も涙ぐんでいたのですが、二人と一緒に暮らしていた黒猫のスージーちゃんがその後どうなったのか、説明無し。
せめて、レイモンドとその妻がスージーちゃんを家族とした、とか追加情報くれれば安心するのに。
二人の関係の表層だけを描写しながら、その二人の仲がどれほど深いのか、そして、ふつうに愛して愛されて生きてゆくというそれだけのことがどれほど美しくそして難しいことなのか、それだけを感じればいいのかもしれません。


あと、朝鮮戦争のことも言及されています。
よく知られていませんが(英国人すらよく知っていない)、英国は朝鮮戦争に参加しています。
勝敗が決まらなかった戦争なので、ほとんどメディアで語られたり大掛かりで有名なイベントがあるわけでもないので、英国では「忘れられた近代の戦争」ではないかと思います(そのためか、ベトナム戦争には参加せず)。
それから、第二次世界大戦が終わっても、しばらく食物によっては配給制度が続いた描写がありました。
大変な時代でした、本当に(陸続きのヨーロッパ大陸にある国々に比べれば、それでも良かったですねー、と言いたくなりますが。バターが不足して配給制度だったので国民が健康的になって心臓発作が減った、とかいう話を以前聞いたことがありますが、真偽はいかに)。


英国にいて、英国人嫌いになっているので、日本に帰って英国のことが懐かしくなってから観るとまた違った感想を持つかもしれません。
(一生、英国のこと懐かしいなんて思わない可能性、大きいですけどね〜)


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コメント
No title
風が吹く時、、そうね、、スノーマンの人が書いたんだった、
ムーミンは原爆後の世界、

お正月に少し頭冷していろいろ考えてみるわ。
力作、、もっとゆっくり味わって読みたい。

明日はおせちいらないって、、ホテルでお食事になったの。
おかげで私は 少し楽なの。よかった。
ご褒美みたいなの。

本当の東京人よ、おせちなしで、お正月ホテルで済ませて、、
こんなの初めて、、お正月は、作る、、うんと作るだったのに。
狐につままれた感じなの。
2016/12/31(土) 11:43 | URL | hippopon #-[ 編集]
No title
2017年、明けましておめでとうございます。
ふふ~ん、一番乗りかな?

ふうままさんとそのご家族にとって良い年でありますように。
今年もよろしくおねがいします。

おひさしぶりです。お元気ですか?
2017/01/01(日) 01:12 | URL | バジル #-[ 編集]
No title
ロバート・ウェストールもそうですがv-280

労働者階級の立場に立っていて好きな作家ですv-339

そういえば映画『やわらかい手』も最高でしたv-351


2017/01/01(日) 06:01 | URL | ゲンタくんのパパ #-[ 編集]
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2017/01/01(日) 20:05 | | #[ 編集]
あけましておめでとうございます!
記事を書いている途中にシステムが再起動しちゃうことってありますよね。
私のノートパソコンはもうそろそろ限界っぽく、しょっちゅう固まっています。

ところで、レイモンド・ブリックスは観たことがなかったので、SnowmanとAs The Wind Browsをこの機会に鑑賞いたしました。ぷうままさんが書かれている「政府によるプロパガンダとか、為政者への絶対の信頼」の部分が本当に怖いなっと感じました。こういうイギリス人いそうですし。

今年もいい年をお過ごしくださいますようお祈り申し上げます~!
2017/01/01(日) 23:04 | URL | のろのろ #-[ 編集]
hippoponさん
ホテルでお正月なんて、ちょっとセレブ〜
おせちも美味しいんでしょうね〜

今年もよろしくお願いします。
よい年になりますように。
2017/01/02(月) 07:13 | URL | ぷうまま #-[ 編集]
バジルさん
明けましておめでとうございます。
バジルさんのブログ、拝見しました。
バジルさんとにゃんこさん達が元気にもふっているようでなによりです。
私は元気に太ってます。
今年もよろしくお願いします。
2017/01/02(月) 07:15 | URL | ぷうまま #-[ 編集]
ゲンタくんのパパさん
『やわらかい手』観てないので英語タイトルチェック、完了!(Irina Palm)
ウェストールは、英国のテレビで滅多にやってくれないと思う〜
こっちも観たことも読んだこともないよ〜v-394
2017/01/02(月) 07:29 | URL | ぷうまま #-[ 編集]
Re: あけましておめでとうございます!
あけましておめでとうごさいます。
うちのコンピューターは、古くって、いろいろ不都合が多いです。
どうにかしたいけど、買うと高いよ〜

そうなの、こういうイギリス人、けっこう多いもんね。
政府を信頼している人はごく少数だろうけど、お気に入りの新聞やニュース番組やNHSの医者を信じきっている人もいるし〜

今年もよろしくお願いします。
よい年になりますように。
2017/01/02(月) 07:34 | URL | ぷうまま #-[ 編集]
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愛猫ぷう、17歳の2016年7月、英国のEU離脱の衝撃が冷めないときに旅に出てしまいました。ぷうのいないロンドンで、なんとか適当にぐーたらに生きていけるように、ちょっとはがんばらなくちゃなぁ。

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