『もののけ姫』英語吹替え版を観たのでそのお話 

馴染みの日本映画をアメリカン英語吹替えで鑑賞することは、かなりの拷問的行為です。
特に私のお気に入りの『もののけ姫』の吹替えとなると大変です。
ところが、歴史的考証プラス日本独自の世界観が細部にまで描かれている作品となると、苦痛をとおりこしてちょっと楽しめるレベルになってしまうのでした。 


時々いい映画をやってくれるけど、平日の午後は戦争映画、夜の九時からはスーパーヒーローものかアクションばかりのデジタル専門チャンネル、Film4が『もののけ姫』の英語版Princess Mononokeを放映してくれました。

(トレーラーがあまりにもハリウッドすぎ)


なんといってももののけの世界。
神、神に準じる生き物達、それらに関わる人間。
厳しい現実に立ち向かっている登場人物&登場もののけばかりですから、彼らの言動は重く威厳があるのが当たり前。
なんですが。


モロの君は90年代に流行ったアメリカのテレビシリーズ『Xファイル』のスカリー役でおなじみのジリアン・アンダーソンさん。
オリジナル日本語版では美輪明宏さんですから、これはどんな優秀な俳優さんが演じてもあのレベルに達するのは無理なので、批判できないです。
でも、サンの声優さんはちょっと苦しいです。
まるでフォーエヴァー21で買い物している偽物金髪の明るいアメリカ娘のような声で、人間として女性としてのアイデンティティーももてずに死をおそれずに森のために戦っているサンと声とは思えませんでした(クレア・デインズという女優さんです、写真みたらやはり偽物金髪でした)。


あとは、やはり、英語では表現できないものが多く複雑なもののけの世界。
エボシ御前は、Lady Eboshiと呼ばれてました。
Ladyと呼ばれていると、単によい階級や家で育った女性みたいな印象を受けます。
『御前』に隠された彼女の複雑な過去を反映できていません。


シシ神さまは、Forest Spirit。
ちょっと違うような気がしますが、そこまでつっこみません。
それよりも問題なのが、シシ神さまの夜の姿、ディダラボッチがNight Walkerと呼ばれていたこと。
ルーク・スカイウォーカーなら知ってますが、ナイトウォーカーも存在したとは。


あと、タタリ神のこと、単なるdemonになってました。
エクソシストの世界みたい。
乙事主(おっことぬし)さまは、デーモンなんかになりません!
神さまなんだから。
(この意味がアメリカ人にはわかるでしょうか?)


一神教の世界観をもった文化圏が、多神教の日本の世界を翻訳して紹介してくれているのは確かに難しいことであり、それだけに有り難いことです。
善と悪という単純な世界ではなく、もののけも人間もそれぞれが生きていくだけなのに利害がぶつかりあって、戦わなくてもよい者たちが戦わなくてはならない世界。
アシタカはもともと「あちら」の文化圏からやって来た青年だし、タタラの多くの住民は売られたり差別されてきた「どこにも属せない」人々、サンは勿論人間に捨てられて犬神に育てられた「人間でもけものでもない存在」。
当時差別の対象であったハンセン病患者を受け入れたり『社会』から疎外された人々を集めた軍事産業による『ユートピア』、タタラを作ったエボシ御前。
実際に映画を観れば、そういった翻訳しきれない言葉やフレーズよりも、映像の迫力と繊細さと美しさが登場人物の感情から人間の業の深さまで、全てを物語ってくれます。
宮崎駿の天才ぶりを、吹替え版を通して学び直しました。


(ただしこの吹替え版、子供でも観られるように編集されていたらしく、モロがエボシ御前の腕を噛みちぎるシーンや激しい戦闘シーンの一部カットでした。カットシーンが多くてようやく気付いたのですが、この作品はけっこう残酷な描写が多いですね。会話も「殺してやる」とか「食ってやる」とか。現代社会でSNSでこんなこと呟いていたら警察のご厄介になるかもしれません)


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コメント

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No title

凄いきりこみかたしますね。
イエスかノーしかないような、、・

ガンダムの演説などは良く包装できたと思うような部分があって、
日本は自由だなと思ったりしました。
東京は凄く冷えてます。

hippoponさん

日本は表現自由ですよ〜。
宗教ネタ何でもオッケーですから。
来年がんばってガンダム観なくてはけないかな?

共存

こんばんは。
わたくしは英語版は「ふむふむ。。そう訳すか。。」と、これ英訳した人、がんばったなあ。。って感じを受けました。日本独自の世界観を訳すにはバックグラウンドの説明がいるだろうし、100%訳すのは無理でしょう。そのうえ、アメリカお得意の善と悪のわかりやす~~~いストーリーでもないし。

ぷうままさんがおっしゃっているように
>>一神教の世界観をもった文化圏が、多神教の日本の世界を翻訳して紹介してくれているのは確かに難しいことであり、それだけに有り難いことです。<<
ある意味、この映画のテーマ「共存」ですよね。
宮崎駿の作品は「共存」がテーマの作品が好きだな。

この作品はみせるとしたらわたくし的にはティ―ンエイジャー以上からだと思います。
宮崎ジブリ映画だからといって、3歳児に観させ恐怖におののかせたママさんがいました。

Re: 共存

共存!
この作品観ると、必ずのように世界的な紛争とオーバーラップして見えてしまうところがあるのです。
皆がそれぞれの『正義』をふりかざしているなかで、アシタカの『曇り無き眼』が光るわけですね。
ハリウッド的な世界だったら、悪を排除してハッピーエンド。
楽すぎる。
現実には、なかなかそういかないから。

もののけ姫は確かに世界が残酷すぎますよね、お子様たちには。
ジブリ作品は、ほとんど大人のほうが楽しめますよね。
高畑監督の火垂るの墓は、トラウマ体験になるのがわかっているので私まだ観てません。

Kiki's Delivery Service...

こんにちは〜
本日のFilm4お昼から番組は、魔女の宅急便に違いないと思って楽しみにしていたのですが、コロッと忘れてみそこねてしまいました。号泣。
ここ1ヶ月間で、トトロの再放送も、もののけ姫も、見逃しちゃって、大号泣です。

ぷうままさんがご覧になっていたら、感想書いて下さらないかな〜なんて、淡い期待を抱いちゃっております。

Re: Kiki's Delivery Service...

魔女の宅急便やってたのですね。
残念ながら観てません〜。
クリスマスの時期だもの、チェックしなくては。
関係ないけど、昨夜はタランティーノのジャンゴ観てしまいました(で、寝不足)。
なんだか、コメディーになってしまっているような、残酷シーン観ても全然痛くない(私がおかしいのかな?)。